盛りだくさんのマスターズスピードスケート競技会

 無事に終了!正にその一言に尽きる2024年最初の週末。

 32年前の紅花国体時に建てられた「山形市総合スポーツセンタースケート場」にて、今年第24回全日本マスターズスピードスケート競技会が1月6日、7日の両日開催された。アメリカ、モンゴルからの仲間も参加してくれた2019年の第19回大会以来の大イベント。今回は、北は北海道から、南は大阪からと全国各地から女性5名、男性61名がエントリー、総勢58選手(当日男性3名不参加)が山形の地に集結、全日本マスターズスピードスケート競技会史上、最大の盛り上がりを見せてくれた。

世界の丸茂
 ステージの主役の一人は、世界の丸茂伊一氏(1929年生まれ)。世界最高齢スピードスケート競技者のギネス記録保持者(93歳282日)が一年ぶりに氷上に戻ってきた。今年2024年は、丸茂氏にとっては節目の年。500m、1000m完走によるギネス記録(94歳282日)更新の他に、国際スケート連盟(ISU)、及び国際マスターズスピードスケート委員会(IMSSC)の年齢区分規定(6月30日時点の年齢適用)で、4月1日生まれの丸茂氏は、ISU&IMSSCの新しい年齢区分である初の95歳部門でのチャレンジで、正に前人未到の95歳部門記録が樹立されることになる大役があった。

 競技会初日、予報は雨ながら、神がかるかのように丸茂氏の滑走時は雨が止んだ。若手マスターズのサポートを受け、バックストレートの入り口からエスコートされ、500mのスタート受付に難なくたどり着いた。名前が呼ばれエスコートされてスタートライン前に着くや否や、まさかの転倒。会場はどよめき、一瞬にして静寂となった。一人で起き上がり、スターターのコールでインナーレーンのスタートラインに。号砲に反応し、スムーズな滑りだし。50m付近でバランスを崩すも、応援を背に受けて、立て直し順調に滑走。バックストレートの交差を難なくこなして、アウターレーンを周り帰ってきた。最後の100mは、非常にテンポよく、足を止めることなくゴール。自己ベスト更新はならぬも208秒26(3分28秒26)で95歳部門500mの世界記録を樹立、併せてギネス記録更新(認定手続き中)を達成し、会場が3分30秒の静寂から解放され、大盛り上がりとなった瞬間だった。丸茂さん、おめでとう。

 大記録は翌日も。雪予報の天気は、競技開始から快晴に。しかし、昨日は静かだった空が、今日は北風が。1000m最終組でバックストレートのスタートラインに立った。向かい風に向かってスタート。最初のカーブを難なくこなし、難関の最初のホームストレート。昨年はホーム中央に設置された光電管で困惑したが、ホームの直線を交差することなくクリア。98秒24かかったが、まだまだこれから。屋外リンクでの競技でもあり、昨季(屋内)のタイムよりも1分ほど余分にかかったが、続く600mも順調にクリアしたが、そしてここから試練の10分が始まった。700mのカーブを回ったところ。ちょうど昨季のタイム(7分7秒69)を過ぎたあたりで、両手をついて、停止してしまった。北風の突風が丸茂さんの行く手を阻んできのだ。着実に、一歩一歩と脚を運び、バックストレートの直線に差し掛かってからは、全く前に進むことが出来ず、何度か動きを止めることになった。会場から不安の溜息があちこちで聞こえた。応援を力に、北風に立ち向かい、足を動かし始めた。5m進んで停止、3m進んで停止。それでも前に、前にと動かした。強風の北風のバックストレートを抜け出すまでに4分かかった矢先、残り800mのコーナー。インコースに舵を切ったその時、転倒。周りの声がけを力に立ち上がり、両手を膝につけながら、脚を動かし始める。遂に最終コーナーを抜け出した。既に13分30秒。残り50m。追い風。ゴールの瞬間を観ようと会場が総出で注目。あと10m。あと8m。あと5m。バランスを崩して転倒。丸茂氏は絶対に諦めなかった。氷に両手をついて、ゆっくりと立ち上がる。会場の声援をパワーに変え、滑りはじめた。そして、両手を高々と挙げ、遂にゴール。15分18秒33は、トップ選手が10000mを滑るタイム相当。15分以上も氷上に立ち続けた。前人未踏の大記録達成(95歳部門)。それでも、滑り切った丸茂さんの流暢な滑舌は絶好調。全く疲れを知らず、まだまだやれるぞと本院の意思が伝わってきた。丸茂さん、おめでとう。

対決①:往年のオリンピアンVS二刀流エースの全国大会初出場対決
 サラエボ五輪に出場され、後に日本代表監督も歴任されたレジェンド今村俊明氏が氷上に戻ってきた。この日のために空いた時間にコソ練を積み重ね、全日本マスターズ初参戦。うれしいの一言。その岡谷のレジェンドと同組で滑走したのが練習パートナーで同じ岡谷スケート協会登録の三澤智松氏。学生時代にスケートから野球に転身した二刀流で花形のエースもなんと全国大会初出場。レースは、社長(往年のオリンピアン)が練習パートナーに、最初の100mからぶっちぎられ、置き去りにされるかと思いきや、場内の声援を受けて後半巻き返し、57秒62でフィニッシュ。一方、全国大会初参戦で、翌週には、イタリアでの世界マスターズゲームズ(1月11日開催)参戦を目指す三澤氏は、真新しいレーシングスーツを纏い、圧巻のパフォーマンスで、51秒73でゴール。往年のオリンピアンを破り、会場を大いに沸かせてくれました。両氏とも500m一本で帰られたので、次回は長いのをお願いしたい。

対決②:女性対決
 Aクラスの参加者がいなく、いつもより参加者の少ない女性陣でも、唯一のペア対決があった。スプリント総合ポイントの世界記録保持者である古屋野順友さん(軽井沢)と、元全日本チャンピオンの加藤千栄子さん(Vortex)の対決。順友さんの飛び出しがすごく、12秒35でさいしょの100mを通過、47秒19でフィニッシュ。翌週の世界マスターズゲームズに参戦する千栄子さんは、くらいついて、50秒42でゴール。二人ともレーシングスーツとても素敵でした。

対決③:ガチンコDクラス対決
 もっとも多いエントリーだった男性Dクラス(55歳~65歳)での、小金澤栄氏(SPORTS.LPO)と高山誠氏(京都SSC)のこのクラス最終組のガチンコバトルは見応えがあった。まずは、初日500m。インコースの小金澤氏が最初の100をリードするも、中長距離を得意としている高山がバックストレートで小金澤氏の背中を追走、最終インコースのカーブでギアを入れ、出口で並び直線勝負。小金澤氏が最後に力尽き、高山氏が「よっしゃ!」とガッツポーズして、45秒96でゴール。しかし、ストーリーはここで終わらず、翌日の1000mでは、アウトスタートの小金澤氏が序盤から積極的に飛ばし、200mの入りでも遅れることなく直線を並走。最初のバックストレートでは高山氏を大きくリードし、600mでは1秒13の差をつけた。しかし、ここで高山が猛追し、最終コーナーの出口で並ぶも、最後まで脚を動かしきった小金澤が1分34秒21で逃げ切り、見事リベンジを果たすも小金澤氏は静観だった。

対決④:将来のマスターズとなるライバル対決
 男子Aクラスのバトルもいい。全日本マスターズ常連ながらまだ31歳の大型スプリンター光岡知成氏(恵那SC)に対する2年先輩ながら全日本マスターズ2回目のオールラウンダー木村佳憲氏(八戸SIGNEIGHT)の対決がまたすごかった。初日の500mは、インコースの光岡氏が0.15秒差で飛び出すも、木村氏が後半のラップで猛追、コーナーの出口で追いついたが、最後の直線で光岡が踏ん張り、最後は0.06秒差の41.77で逃げ切った。そして翌日の1000mでは、組み合わせの関係で、カルテット滑走も二人だけのインスタートと変則的なレースとなった。同組でのバトルとならず、個々の精神との闘い。駆け引きがないトライアルを制したのは、前半から積極的にアタックした光岡氏。最終ラップを6秒も落とすも、前半の貯金が功を奏し、1分28秒36でフィニッシュ。中距離を得意とする木村氏の猛追でも届かなかった。非常に見応えのあった30代でのバトル。これから長きに渡り競争していって欲しいし、是非将来のマスターズを牽引して欲しい。

対決⑤:Bクラスの展望
 初めて全日本マスターズに出場してくれた幅田洋司氏(厚真協会)が500mに参戦。10.98のオープニングで、41秒46のフィニッシュ。なんとAクラスの二人のライバルを抑えてのBクラスでの優勝はお見事。幅田氏の登場は非常にありがたい。マスターズの将来に刺激を与えて欲しい。

対決⑥:群馬vs埼玉
 なんだかんだ言っても今回の全日本マスターズのハイライトの一つは、川島栄喜氏(太田クラブ)VS細田俊彰氏(埼玉SS)の70歳同級生対決(群馬VS埼玉)。2日目の1000mの組み合わせは最高でした。国際マスターズスピードスケート競技会でも表彰台に乗ったスプリンター川島氏がインコースから飛び出すも、0.53秒差をつけて前半をリード。600mで細田氏が巻き返して、川島氏の貯金が半分に。普段も共に練習し合う仲間がガチンコで競い合い、お互い苦しい最後の400mもラップを落とさず、最後の数メートル勝負。ラインを先に切ったのは、5か月先輩の細田氏。0.02秒差のゴールシーンは将来語り継がれるでしょ。

 他にも大会記録が樹立されるなど、衰えの知らないマスターズの成長がたくさんありました。初めて参加された方、氷上に戻ってきてくれた方、マスターズ競技を継続している方、愛好家から競技者まで各々目的は異なれど、一つの場所に集合し、大人の氷上運動会を繰り広げることが出来たこと、とても素晴らしく思います。

 今回の競技会を見て、益々マスターズの活動が面白くなってきました。女性の参加者が少なくなっていること、組み合わせも独走が多かったことなど、スケート場のない県からの参加者がないことなど考察することが出来ました。一方で、レジェンドの復帰もあり、愛好家目線と競技者目線をうまく組み合わせて、人が集まるような、将来見たい、参加したいと思うよう、プロアマ関係ないオールスター祭典が出来そうな展望も感じました。

 最後になりますが、この大舞台を作ってくれた日本スケート連盟、その大舞台を演出してくれた山形県、山形市スケート協会の方々、携わってくれた仲間の方々、そして見事なパフォーマンスを見せてくれた個性派の参加者の皆さんには本当に深く感謝申し上げます。観覧者の一人としては、大いに楽しませてもらいました。有難うございます!

三澤さんと今村さん
丸茂さんと審判の足立さん上田さん
河原木さん
細田さん
群馬vs埼玉
竹内さん
永井さん
富成さん
加藤さん
齊藤さん